最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1915号 判決 1949年5月14日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人伊藤淳助の上告趣意第一點について。
昭和二三年二月二四日、米国第八軍司令部より発せられた日本の刀劍並びに銃砲の回收、類別及び處分に關する日本政府内務省警保局長宛の覺書により、刀劍並びに銃砲の登録申請の受附及び處理は、同年六月一日迄延長されたことは所論のとおりであるが、同覺書によれば、右延長期間中になすべき申請には、昭和二一年勅令第三〇〇号に規定された本來の期間中に登録しなかった事実に對する完全にして、且つ、簡明な釋明書を添えなければならないものであり、都道府縣警察當局において、この釋明を真正であり、情状酌量すべきものと思料する場合には、申請者に對し懲罰手段に出てはならないとするものであって、右覺書が内務省警保局長に宛てて、発せられたものであり、右覺書に基いて、前記勅令の改正等の措置か採られなかったところから見れば、右覺書は捜査機關に對する行政命令であってもとより右勅令の効力を左右するものでなく、同覺書にいわゆる懲罰手段(disciplinary action)に出てはならないとの趣旨は、前記の事情のある場合には、訴追に關する手續を見合わすべきことを命じたものであって既に、前記勅令違反の罪により公訴を提起せられた者に對し、その公訴權を消滅せしめ、若しくは、一旦成立した犯罪の成否に影響を及ぼすものではないと解すべきである。本件において、被告人は、前記勅令所定のいわゆる本來の許可申請期間内に届出をすることなく、本件刀劍類を所持し、これを自己所有の山小屋の天井裏に隠匿していたのであるが、警察官憲の捜査により発覺し起訴されたものであることは、記録上明らかである。しかして、被告人がその後本件第二審の繋属中である昭和二三年五月三〇日(右覺書指定の期間内)に、所轄警察署に所定の届出をしたことも、また記録により明らかなところではあるが、右届出は既に提起された公訴の効力を左右するものでなく、また本件犯罪の成否に影響を及ぼすものでもないことは前に述べたとおりである。從って、原審が右届出に對する審査の結果について、考慮することなく、被告人に對し有罪の判決をしたことをもって、所論のごとく違法の措置であるとすることはできないのである。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
よって、刑訴施行法第二條、舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。
右は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)